OTAKUエリート 2020年にはアキバカルチャーが世界のビジネス常識になる (講談社+α新書)
- 作者: 羽生雄毅
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 新書
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表紙の印象でいわゆる「日本は世界でこんなに愛されている!」「クール・ジャパン万歳!」系の内容かと思ったが、違った。
著者の実体験をベースに、世界各国のエリートたちが日本のマンガ・アニメ・ゲーム・ウェブ動画などオタク文化発祥のコンテンツのファンであることを示した部分は多少それっぽくはあるが、大枠ではそうした一部の熱狂的なファンの存在をクローズアップして日本のオタク文化の国際的人気を過大評価することを、著者は厳しく戒めている。
というのも著者いわく、日本のコンテンツが世界で受け入れられているのは、あくまで「サイバーカルチャー」(インターネットのアクティブなユーザーたちによるカウンターカルチャー)のネタの供給源のひとつとしてらしいのだ。それは日本国内におけるオタク文化の受け入れられ方、ひいては、日本が「クール・ジャパン」として売り込もうとしているコンテンツの消費スタイルとは異なる。
どういうことか。本書の中にある例を元にしてざっくりと説明しよう。
『進撃の巨人』にサシャというキャラクターがいる(泣く子も黙る大ヒット作だし、いまさら細かい説明はいいよね?)。彼女は作中のとあるシーンをきっかけに、欧米圏では「Potato Girl」として知られるようになった。そして今ではマンガやアニメの彼女の登場シーンを元にしたパロディ画像(コラージュもあれば、二次創作のイラストもある)がネットに溢れている。
しかしこれは『進撃の巨人』という作品そのものの人気とイコールではない。「『進撃の巨人』のサシャ」ではなく、ここで人気なのはあくまで作品というコンテクストから切り離された「Poteto Girl」というネタなのだ。
「んだよ、そんなのあたりまえじゃん! ちょっとネットに張り付けばわかることを偉そうに語ってんじゃねーよ!」なんてどこぞの画像掲示板の住人あたりからは貶されそうだが、半年ROMってそういうことを理解する暇もないくらい忙しい人も世の中には多いわけ。そういう人たちに対する手頃な解説本というのは、十分に価値がある。
なぜなら、この受容のズレを意識しないままに日本のオタク文化を世界に押し出して行こうとすると、広める側・広められる側の双方に悲劇をもたらす可能性があるから。ようするに本格的な作品展開をするにあたって権利関係を厳しくクリーンにしようという動きが……って、まあ、そのあたりの細かいロジックは本書を実際に手にとってみてくださいな。読み切るのにそう時間のかかる本でもないし。小一時間もあれば十分。
題名と装丁、それからネットユーザーに変に媚びようとした妙に浮ついた文体で損をしているが、根っこにはシリアスな問題意識のある良い本だ。オススメ。
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ところで、著者の本業(?)であるところの培養肉事業は……どうなんだろう?(笑)
あくまで本を評価しただけで、この事業には特に肩入れしていません、と念のため明言しておく。
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……ああ、満足した。
一回、こういう山形浩生さんモドキ文体をやってみたかったのだ(笑)。