(※写真は昨年大分旅行の際に撮影したものです。本文の内容とは関係ありません)
駅のホーム。深夜だが、まだ終電までは余裕がある。人気は少ない。
椅子に座り、地下鉄を待っていると、ほんのりと酔った様子の白人の男女が、目の前で足を止めた。
こちらもアルコールで軽く意識がぼーっとしていたので、見るともなしに眺めてしまう。
若干、ふたりの体に距離がある。恋愛関係ではなさそうだ。とはいえ、まったくその気がない同士でもない、いわゆる「友達以上恋人未満」のようなものらしい。
そんな風にあたりをつけていると、案の定、恋の鞘当てが始まった。それなりの音量なので、聞き耳を立てずとも、耳に届いてしまう。
英語での会話なので、厳密な内容はわからないけれども、断片的に聞き取れる単語から推し量るに、「このあと、どうしたい?」「ふふ、なにをいわせたいの?」「わかるだろ?」「ダメよ、ちゃんといって。いってくれなきゃ、わからないわ❤️」「困った子猫ちゃんだな❤️」のような感じのやりとりだ。
しかし、どうも会話の流れがスムーズにつながらず、お互いに決定打を繰り出せない雰囲気。ここからどうオチをつけるのか。まさか、何ごともなく終わるのか? なぜかこちらがハラハラしていると、いきなり男が、着込んでいた薄手のセーターを勢いよく捲り上げた。
……下からあらわれたTシャツの前面には、デカデカと「I LOVE SEX」の文字が。
椅子からずり落ちた。「オー、リアリー? 家からずっと着てたの?」とかなんとかいいながら、女は大ウケ。男もつられたように笑い出す。そして、ひとしきり笑い合ったあと、ふたりは人目もはばからず濃厚なフレンチキスを交わした。
ほどなくして到着する地下鉄。僕は、得体の知れない敗北感に打ちのめされながら、ふたりとは別の車両に乗り込んだ。
「結果を出す男」の服、「認められる女」の服、「その他大勢」の服
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